「良い俳優」にもいくつかあるが、とりわけ私が好むのは以下のような俳優である。 ① 共演者やクリエイターとのコミュニケーションを怠らない ② 作品のトーンを理解して演技の種類をコントロールすることができる ③ 観客の視線を緩やかに誘導しながら演技できる ④ 怪我をしない ⑤ 役に「没入」せず、「集中」できる 1〜4は、基本的なことのように思えるが、実際に現場でやってのける俳優はなかなかいない。そういう俳優と出会ったとき、私は「お願いだから作品に出てくれないか」と懇願している。私の作品が良くなるからだ。5についての説明は割愛するが、1〜4の延長線上にある演技体と言えるだろう。 このWSでは創作そのものや、具体的な演技論ではなく、私の思う「良い俳優」が、創作の現場や創作の周辺で取り組んでいる「ふるまい」についてのあれこれを取り扱う。「良い俳優」は現場で何を考え、どう動いているのか。皆と共に考えてみよう。もしあなたが強烈な個性や才能を持ち、他の追随を許さず、存在のみで押し切れてしまうような俳優なのであれば、このWSを受ける必要はないのかもしれない。しかし、多くの場合がそうではないはずだ。俳優の個性や才能とは、むしろ普遍的なもので、形は違えど誰にでもある。差がつくとすれば案外、創作の周辺の「ふるまい」にあるのではないだろうか。 ただしこれは決して「扱いやすい俳優」になれということではない。時には「面倒くささ」も必要だ。映画も、舞台も、そもそもが面倒な共同作業である。誰にも良いように使われないよう、ちゃっかり作品においしく出演しながら、作品を伸ばす俳優は現場で何をしているのか。「あの俳優がいると作品が良くなる」と言われる俳優の「ふるまい」に着目したい。